お知らせ

日付 2017年04月07日
お知らせ項目 『手紙』
お知らせ内容
手紙
翻訳者:关继尧

“呜—”火车已经进站了。洁仍在手忙脚乱地往丈夫的旅行包里塞着刚买来的吃食。
「うー」と低く警笛をならしながら列車がプラットホームに入ってきたが、潔は依然としてせわしげに、買ってきたばかりの食品を夫の旅行カバンに詰めている。

“剩下的拿回去你吃吧,车快开了。”丈夫眼盯着火车。催促着。
「もういいよ、残ったのは持って帰って君が食べればいい。もうすぐ発車するぞ」夫はしきりに列車のほうに目をやりながら、潔をせき立てた。

“把这些水果带上,出门在外多吃点水果败火。”洁一面叮嘱着丈夫,一面将自己的背包从肩上取下来,把香蕉、桔子、水蜜桃等怕压的东西塞进去,交到丈夫手里。
「果物は持って行ったほうがいいわ。旅行してると、けっこう疲れるものよ。お薬がわりだわね」潔は夫にこう言い聞かせながら、自分のショルダーバッグを下ろして、バナナ、オレンジ、スイミツトウなど傷みやすいものをそっとその中に入れ、夫の手に持たせた。


丈夫无奈地接过去,冲洁微笑一下。洁也回敬丈夫一个甜笑,目送丈夫上了火车。
夫はしかたなくそれを受けとり、潔ににっこりしてみせた。潔も甘い笑顔を返し、列車に乗り込む夫を見送った。

火车隆隆地开走了。
列車は轟(ごう)音を立ててホームを離れていった。

洁有些疲倦地往家走。丈夫每次出差她都要到车站送行,买上些吃的东西让他带上。她和丈夫属工薪阶层,丈夫舍不得多花钱买火车上的东西吃。
潔はきびすを返し、家に向かった。いささか疲れたようだ。夫が出張するときは、彼女はいつも駅まで見送りにいき、いろいろな食べ物を買って夫に持たせて来た。二人とも給料の安いサラリーマンなので、町中より値段が割高になっている列車の中でものを買って食べるのを夫は嫌っていたのである。


忽然,洁的心猛地狂跳起来:天哪,我怎么把自己的背包交给了他,那里面……那里面有一封自己珍藏了二十多年的信啊。
突然、潔の心臓が高鳴りはじめた。大変だ!あんまりせかされたので、うっかり自分のバッグを夫に渡してしまったが、中にはこの二十年間大切にしまっておいた手紙が入っていたのだ。

信是她初恋的男友寄给她的。男友后来在大串联[1]的途中得病死了。她一直珍藏着这封信,也珍藏着自己的初恋。昨天她翻出这封信,把它放进背包的夹层,打算带到单位锁进抽屉里。她总担心把信放在家里迟早会惹麻烦。
その手紙というのは、彼女の初恋の男性が自分にあててよこしたラブレターである。彼はのちに紅衛兵になり、全中国を股にかけて旅をしていたが途中で病に倒れ、そのまま彼女に別れを告げることもなく逝ってしまった。彼女はこの手紙を大切に保存し、自分の初恋を胸の奥深く秘めて来たのである。昨日それを探しだし、会社に持って行って机の引き出しにしまっておこうと、自分のバッグのポケットに入れておいたのだ。いつまでも家に置いておくと、いずれトラブルの種になりかねないと思ったからだが、とんでもない間違いだった。

现在,那信却随着丈夫出公差去了。丈夫看到它会怎么想呢? 她爱丈夫,她不愿那封信在她和丈夫之间制造隔阂。
あの手紙は、いま夫とともに出張先に行っている。もし夫があの手紙を読んだらどんな思いをするだろう。彼女は夫を愛していた。もしあの手紙が原因で二人のあいだに溝ができてしまったら、どう悔やんでも悔やみ切れない。

以后的日子里,信就成了洁的一块心病。
それからというもの、手紙のことを思って、潔は落ち着かぬ日々を送った。



丈夫回来了。洁的心一下子提到了嗓子眼。她像个做错了事的孩子似的,等待着丈夫的诘问。
夫が出張から帰ってきた。潔は心臓がドキドキし、気が気でない。まるで過ちを犯した子供のように、夫が問いつめて来るのを待っていた。

然而,丈夫非但没有诘问她,反而喜冲冲地对她说:“洁,我们要有钱了。”
しかし夫には、まるでそんな気配はなかった。詰問どころか、とてもうれしそうな顔をして潔にこう言った。「おい、おれたち、大金が手に入りそうだぞ」

丈夫说完,到卫生间里去哗哗地冲澡。洁急忙奔向丈夫的旅行包,从里面找出自己的背包,迫不及待地打开——那封信静悄悄地躲在夹层里。
夫はこう言い残すとバスルームに入り、シャワーを浴びはじめた。潔は大急ぎで夫の旅行カバンを開け、中から自分のバッグを探し出すと素早く開けた。ぐずぐずはしていられないのだ。助かった、手紙は、元通りバッグの中のポケットにあった。


洁划燃一根火柴,信便在洁的手上渐渐地化成了灰烬。一颗悬着的心终于落回原处。
潔は手早くマッチを取り出して手紙に火をつけた。幾日も彼女を悩ませて来た秘密の手紙は、やがて彼女の手の中で灰と化した。はらはらどきどきしていた心臓がやっと落ち着きを取り戾した。

丈夫容光焕发地从卫生间出来,一脸喜悦地说:“洁,我们真的要有钱了。”“有钱了?”洁奇怪地问。
夫は汗を流し、輝くばかりの顔でバスルームから出て来ると、満面に喜色を浮べてまた言った。「潔、ほんとうだぞ、おれたちは大金をつかんだぞ」「大金ですって?」ふに落ちぬ話に、潔は不思議そうに聞き返した。

“你看,”丈夫拿过洁的背包,里外翻了半天,愣住了,双唇哆嗦着问洁:
「ほらこれだよ」夫は潔のバッグを取り上げるとしばらく中をさがしていたが、突然顔色を変え、くちびるを震わせながら潔に聞いた。

“信呢?”
「手紙を知らないか?」

“让我……烧了。”洁很尴尬地说。
「あたし……焼いちゃったわよ」潔はおずおずしながら答えた。

“完了!”
「焼いたって?畜生!」

丈夫哀叹一声,颓然跌在沙发上。“那信上是一枚‘文革票’[2] ,值一万多块啊。”
夫は悲鳴を上げると、万事休すとばかりにソファーの上に倒れ込んだ。「あの手紙に貼ってあった切手は、『文革』時代の記念切手なんだぞ。いま一万元以上もするというのに……」

洁惊呆了。
潔は呆然として立ちすくんだ。
(終了)


解説:
1大串联
文化大革命(1966~1976)の最中、毛沢東主席の呼びかけで紅衛兵になった若い青年たちが、「革命経験の交流」という名目で全国を自由にかけ回った活動。
2文革票
文革時代の切手は残存枚数が非常に少ないため、希少価値が高くなっている。
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